ハッカソンからの社会実装:石仏総選挙

このブログでも度々書いているけど、一昨年から繰り返しハッカソンに参加している。釧路・伊那・高知・新潟・広島と、これまで5つの地域、8回のハッカソン・アイディアソンに参加してきた。エンジニアでもない私がハッカソンに惹きつけられる理由は、下記を参考にしてほしい。

元々私は、東日本大震災の復興支援を通じて、地方との関わり方を模索するようになった。そこから関心は復興→地方との関わり方に意向し、関心も全国に広がった。そうして「地域課題解決型」のハッカソンにプランナーとして通うようになって、昨年10月に参加したのが、長野県伊那市の「伊那ハック(InaHack 2018 3rd Session)」だった。

で、上記のブログを書いた頃は、メンバーの誰もが思ってもいなかった。私達が提案したプロダクトが、まさか社会実装されるなんて。
提案からわずか半年。私達が提案した「石仏総選挙」は、まさかの展開で予算を獲得し、社会実装された。自分でも驚いた。いや、チームの全員が驚いたし、なんならウフルのみなさんも驚いていた。

おかげさまで「石仏総選挙」も無事に閉幕し、6月7日に最終結果が発表されました。

色々苦労はあったし当初の提案とは違う形になったところも多々あるけれど、チームの目標であった「総選挙からの観光課題解決」という意味では、合格点が出せる結果だったのではないかと思っている。そして、方々から「どういう経緯で社会実装されたの?」という質問を頻繁にいただく。
そこでこのブログでは、私達の「石仏総選挙」がどのように社会実装されていったかをまとめます。ちょっと長文です。苦労したポイントなどは個人の主観が結構入っています。違った角度の見方もあると思いますので、あくまで「遠方からの参加者」「プランナー」「チームリーダー」の視点ということでお願いします。

■そもそも「石仏総選挙」とは何だったのか。
「石仏総選挙」は、伊那市高遠地区にある石仏をPRするための施策として発案されました。第3回伊那ハックには、「防災・農業・福祉・観光」というお題が出ていて、初日の日中はエンジニアも交えてフィールドワークを行い、上記のテーマの中からチームで何に取り組むかをブレストして、初日の夜から翌日の15時まで開発を行うという立て付けになっていた。
私達のチームは、フィールドワーク先のひとつだった「高遠」というエリアに着目した。ここにはかつて、「高遠石工」といって優れた技術を持つ石材加工の職人たちがいた。なので、地域の中にたくさんの石仏がある。でも、いくら優れた石仏でも、歴史やゆかりを知らないと、ただの「石」だ。素通りされてオシマイ。それはもったいない。この石仏たちが注目されて、観光客が高遠にやってくるような仕掛けができないか、というのが、最初のスタートだった。

下記に、チームメンバーの合意を得てスライドをシェアします。なお、一部アニメーションを使っている関係で見にくいところもありますが、まあ、意図はわかるかと。


■特別賞獲得。でも、まさか社会実装されるなんて思ってもいなかった。
伊那ハックの場合、各人のスキルやハッカソンの経験数を元に、運営側でチーム分けを行ってくれていた。私達のチームはエンジニア3名、プランナー3名のチームで、面白いことに伊那在住者が一人もいないチームだった。1名は伊那のすぐ隣の街の在住で、もうお一人が諏訪。長野県民という意味でもこの二人しかいなくて、あとは東京2名、新潟1名、広島1名。とはいえ、個人的には県外者が多いことは逆に良いことだと思っている。過去の経験上、地域課題の発見と解決には、外の目線が重要だと思っている。そういう意味では、うちのチームは外の目が強くて、それで良かったんだと思う。

スライドを見ていただければわかりますが、私達が目指したものを要約すると、

・高遠の石仏が注目される仕掛けとして「総選挙」を開催しよう!
・石仏の中でも建福寺にある西国三十三観音に着目。
・投票ではなく、33体の石仏の前で立ち止まった人をセンシングして「いっぱい立ち止まった」=「人気の石仏(石仏のセンター!)」
・石仏に留まらずこの仕組を伊那市内で横展開して「伊那の一番」を発掘して「総選挙の街・伊那市」として観光を盛り上げよう!

と、こんな感じでした。
ちなみにチーム名は「SKB33」です。「SEKIBUTSU33」ね(笑)
チームのみんなに石仏の魅力を伝えてくれた岩本さん、ありがとう。岩本さんがいなかったらそもそもうちのチームの課題は「石仏」にはなりませんでした(笑)

他の参加者に、「そこのチームはとにかく仲が良くて楽しそうだった」と何度も言われたけど、実際そうだった。たまたまだけど、コミュニケーション能力が高くて穏やかな人が多かった。私にとっては、はじめて「エンジニアとプランナーの心が通じ合ったときの気持ちよさ」を感じることが出来たチームだった。なので、時間の制約というストレス以外は、ほぼ何のストレスもなく物事が進み、プレゼンの結果、私たちは1位〜3位には入れなかったけれど、「特別賞」をいただくことが出来た。どういうわけか地元紙にも取り上げられた(苦笑)

■地元が本気になった時にしかものごとは動かない。
そんなわけで賞をもらって、ハッカソンの後も集まって飲むようなステキな仲間が出来て、「あー、やっぱりハッカソン楽しいわ」と思って、社会実装の「しゃ」の字もないような状態で年も変わり、2019年1月、突然「石仏総選挙の社会実装が決まりました!」という連絡を伊那側からいただき、多分私をはじめチームのみんな「・・・ふぁっ!?」と思ったと思う。

そう。「石仏総選挙」は完全に地元からのオファーだった。これは、他の社会実装と大きく異なる点だと考えている。少なくとも私が見てきた社会実装は、

・プレゼンの場で高い評価を得る
・チーム側に強い熱意があり、継続して開発を続けたいと意思表明する
・地元もそれを希望し、社会実装に向けて動き出す

というパターンが多いように感じる。でも、うちは何しろ、誰もそんなことは考えていなかった(と思う)。「そうなったらいいよね。伊那の役に立ったらいいよね。」という気持ちはあったけど、地元と掛け合って予算を取って、、、というところまで行っていなかった(チームにそういう人いたらごめんなさい)。

にもかかわらず社会実装に向けて動き出したのは、地元の熱意だ。
ハッカソンの時に高遠でのフィールドワークを担当して石仏の紹介をしてくれた方々を中心に、「石仏総選挙を社会実装しよう」と動き出してくれた。そして、伊那市観光協会から予算まで取ってきてくれた。さらに、ハッカソンの主催だった「いなあいネット」さんも予算を割いてくれた。
つくづく思ったけど、「地域課題の解決によそもんの目は大事だけど、物事は地元が本気にならないと動かない」ということを痛感した。こんな機会を与えてくれた伊那のみなさまには感謝しかない。

■遠隔でのブレスト・開発。現地在住者ゼロのチームの格闘

ハッカソンが2018年10月中旬、社会実装の連絡をもらったのが2019年1月下旬。実施は、高遠に最も人が訪れる「高遠さくら祭り」の期間中となった。つまり3月末〜4月。とにかく時間がなかった。
「社会実装」と言っても、プレゼンで発表したものがそのまま実現化できるわけではない。予算の都合もあるし、時間との戦いもあるし、実際リアルに考えたら現実的でないことも色々ある。しかも、何しろ我々は県外メンバーの多いチームだ。伊那と東京、新潟をつないで、何度もオンラインでMTGを繰り返した。会えるメンバーだけで対面で会ったりもした。2月中はほとんど「何をどこまでどうやるか」の議論に割いた。長野在住メンバーには実際に現地まで足を運んでもらったりもした。磯道さん、岩本さん、きっと相当数往復してもらったと思います。ありがとうございます。

■結果的に「石仏総選挙」は何になったか。
そんなわけで話し合いを繰り返した結果、第一回目の石仏総選挙はこんな感じになった。

【前提のお話】
・伊那側の希望として、建福寺にある西国三十三観音以外の地域にも人が来る仕組みがほしいという話になり、対象エリアが広まった。
・33個以上のセンサー? 予算も時間も足りない。
・かと言って、「予算ついたけど辞めます」にはしたくない。期待に応えたいし、このチームで形にしたい。
・今回は第1回目ということで、やれる範囲で最大限頑張って、成果を持って来季に予算を取りに行こう

【結論】
・第一回ということでWEBもSNSもチラシもない状態。センサーよりそっちに予算かけるべき。
・センサーは特定のお寺の入口にのみ設置。現状、そもそも何人お寺に来ているかも分かっていないので、日々の参拝者数と選挙中の比較などに役立てる。
・投票そのものは紙で行ってもらう。

ちなみに、ハッカソンチームのリーダーは私だった。で、私はエンジニアでないので、技術的なことは彼らに任せるとして、絶対に譲れないことが2つあった。それは、

・エンジニアチームに絶対に持ち出しはさせない。むしろ出来うる限りの対価を支払う。
・このプロダクトはSKB33のメンバー全員の成果。その対価として、もう一度みんなで伊那に集まる機会を作り、祝杯をあげよう。そのための交通費と飲食代は予算から確保しよう。

このふたつは、私の中で一貫していた。自分自身が個人事業主として、労働と報酬についてはシビアになっている。だってみんな、会社員だろうと個人だろうと、何かの時間を割いて取り組んでいる。それが正当に評価されないなんて、絶対許せなかった。

■チームビルディングの苦悩。進捗管理の苦悩。見えない苦悩。
たった6人で和気藹々と開発を行うのと社会実装では勝手が違う。私が一番苦労したのはチームビルディングだった。立場的に余計かもだけど。社会実装にあたって、ざっくりこんな座組になった。

・SKB33(ハッカソンチーム)
 →主にセンサーやweb作成、SNSなどデジタルなところ。
・伊那側の実行チーム
 →選挙の仕組み作りやポスター・チラシ製作、現場対応、根回しなど。

この他にも、予算を割いてくださったいなあいネットさんたちもいた。

本件において「もっとこうしておけばよかった」というポイントがいくつかあるけど、ひとつが「関係者が増えた時に、誰が誰だかわからない状態でチームが大きくなってしまった」というのがある。ハッカソンの現場で会っていたのかもしれないけれど、正直、チーム以外の人のことはわからない。それがメンバーとしてSNS上でチームを組んだ時、通常時は良かったけど、ちょっとコミュニケーションに失敗するとものすごくストレスを感じてしまった。対面ゼロ、または人となりのわからない人と、SNS上で本気のやりとりをするのは辛い。

進捗管理・タスク管理も、もう少し上手くやれれば良かったことのひとつ。私たちは基本、FBハッカソンの時の作ったFBグループをベースにコミュニケーションしていた。オンラインMTGはZoom。タスクが緩い時はそれで良かった。でも、業務が細分化されて行くと、誰が何をいつまで、というのが管理できなくなってしまった。スプレッドシートで暫定スケジュールやToDoを引いたけど結局使われなかった。あとの祭りだったけど、タスク管理にTrello、プロジェクト用の共有カレンダーの立ち上げ、かつ使用の徹底などすべきだった。

とはいえ、それで上手くいったかもわからない。こういう座組みの場合、個人のツールへのリテラシーの差も問題になってくる。
私が一番ストレスだったのは、ハッカソンチームがキャッチアップ出来てないうちにものごとが動いていて、作りかけのものを変えなきゃいけない、スケジュールを変えなければいけないということが再三起きたことだった。遠隔でやる以上仕方ないのかもしれないけど、「報・連・相どこ行った?」と思うことは非常に多かった。

これは仕方ないことでもある。全員が全員遠隔だったらフェアかもだけど、現地チーム+遠隔メンバーとなると、どうしても現場で決めないといけないことも出てくるだろう。「あなたが会議に出れるなら話は別ですけど、出れませんよね?」と言われたことがあって、悔しくて泣いた。ハッカソンの発案者はチームでも、最終的に地元が主体的に、地元のためになることが一番と考えるなら、私のストレスなんて私のわがままだったかもしれないけど、チームを抱えている以上、「もっと気持ちよく仕事をさせてあげたい」という想いは強かった。一応断っておくけど、いたずらに文句を言いたいわけではない。ただ、今後誰かの参考になれば良いって思ってる。

■孤独になったら仲間を作ろう。

じゃあ、このストレスをどう乗り越えたかというと、ちょっとアナログだけど、チームの中に絶対的に信じられる人がいた、というのが、私の乗り越え方だった。
タスク的な話だけじゃなく、何が辛いか、どうしたらベターか、自分たちはどうしたいかを本音で話せる人がいた。全体に対して何か問題提起する時も、まずは二人でベストな方法を認識しあってから展開できた。つまずいた時は自分が何を誤っているのか確認し合えた上でベターなアクションが起こせた。気持ちが昂りやすい私は何度も泣いたし、その度に冷静にさせてもらえた。じゃないととっくに折れてた。
これは、再現性のない偶然の産物だし、一歩間違うとチームをダメな方に導いてしまうこともある。だからあまり良い解決作とも思っていないけれど、結局は「信頼」や「安心」が全てだと思うし、私たちのように誰が誰かわからない状態で物事を進める上で、いきなり全体のチームに展開するより、小さくまとめてチームに広げるのも、やり方としては重要だったと思う。
改めて、齋藤さん、ありがとう。直接伝えたけど、私がこのハッカソンで得た一番素晴らしいものは、あなたとの信頼関係です。

■着地点。センサー・ウェブサイト・チラシ・SNS。
そんな感じで苦労も多かったけど、喉元過ぎればなんとかなるもので、なんとかさくら祭りまでに石仏総選挙の準備は整った。

公式サイト
選挙ポスター
チラシ類

「世界初?の石仏総選挙」という、なんともマニアックな取り組みということで、クスッと笑えるテイスト。真面目なんだか不真面目なんだかわからないけど、愛だけは確実に感じてもらえる感じ。
そしていよいよ、さくらが開花。石仏総選挙が始まった。

■現場が自走しだす。私達は外から支える黒子で良かった。
開花と同時に予期せぬことが起こった。
運営チーム以外の地元のみなさんたちが、強烈に石仏総選挙を応援してくれた。

石仏の選挙カー!?

これは全く我々も想定してない展開だった。
そして、盛り上がる地元を見てすっごく励まされた。いつも思うけど、人はお互いに励ましあって、相乗効果で伸びていく。地元が盛り上がれば、今度はメディアも集まる。それを見て人が来る。
ここに来て石仏総選挙は、自走し始めた。

たくさんのメディアが取り上げてくれた

■もう一度集まって、桜を見ながら酒を交わそう。
4月13日・14日。ハッカソンのチームメンバー6名と伊那側のメンバーは再び伊那に集まった。

みんなで蕎麦を食べ、高遠の桜を愛で、総選挙に投票する人々の姿を見つめた。大人が、子供が、石仏やそのポスターを見て1票を投じる。投票している地元の人に聞いてみたら、「私たちもこんな石仏があるって知らなかった。」とのこと。観光客はもちろん、地域の人も地元を再発見する。私たちが10月にたった2日間で考えた「総選挙を開催して石仏に注目を集め観光課題を解決しよう」という思いは、本当に形になった。中間発表のために投票箱を開けると、たくさんの票が溢れてきた。ものすごく嬉しかった。

投票箱からあふれる投票用紙

■石仏総選挙の結果

冒頭に書いたように、「石仏総選挙」は19日間の開催で、850人の皆様に投票してもらうことが出来た。オンラインでなくリアルのイベントで、初開催で、この投票数は、個人的に想定以上の成果だった。また、センサーによってさくら祭り期間とそうでない期間で、石仏を見に訪れる方たちがどのくらい変動するのかもデータが取れている。
今後の展開としては、石仏総選挙の最終発表、収集したデータを元に、来場者の分析や考察、次年度への提案などを想定しています。

ハッカソンから半年。本当に、またたくまに色んなことが決まっていった。私にとってはじめての社会実装。もっと上手くやれたかもしれないけれど、それでもあの時自分ができることの全てはやったと思うし、何しろ楽しかった。そして、地域に新しい取り組みを興す事ができた。これがきっかけで石仏や高遠のことを知ってもらうことが出来た。

こんな貴重な経験をさせてくれた伊那のみなさま、いなあいネットのみなさま、環屋の杉山さん、諸田さん、SKB33のみんな、ウフルのみなさま。
本当にありがとうございます!

そしてこのブログが、次に社会実装に取り組む誰かの参考になることを祈っています。
社会を変えるのは難しいし、私も大きなことができるとも思っていない。
でも、小さな一歩がなければ何も始まらない。
そういう気持ちで、これからもチャレンジを続けていきます。

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