「生産者とつながる」ってどういうことなのか。海賊ツアー2017

2年ぶりに、岩手県山田町に行ってきました。我が愛する「山田の海賊」に会いに行くためです。

CSA

2013年に創刊された「食べ物付きの情報誌」である「東北食べる通信」。グッドデザイン賞金賞にも輝いたことのあるこちらの紙面を通じて海賊に会ったのは、2014年6月のことでした。

 

■作り手の人間性が食にかける魔法

「東北食べる通信」は、月に1回、東北の素晴らしい生産者のストーリーを伝える誌面と、おまけとしてその生産物を届けてくれるという情報誌です。一般的な食べ物の発送サービスであれば、「食べ物」が主役になるところですが、食べる通信の場合は主役が「作り手」で、食べ物はおまけというスタンス。これが非常にいい。

なぜかというと、トマトはいくら背伸びしてもトマトだし、サンマはいくら頑張ってもサンマなんです。

そこに、「あのこだわりのおっさんが作った〇〇」とか、「あの荒くれ漁師が獲った××」となるから、食べ手にとって、ただの食べ物がスペシャルな食べ物になる。そこに必要なのは作り手の、それこそ手のシワまで見えてくそうなくらいのストーリー性や人間性なんです。

当時、バリバリに東北を応援していて、しかも実家が専業農家という出自がある自分にとって、この「東北食べる通信」はかなりセンセーショナルなものでした。最初はイチ読者として関わっていましたが、それを変えたのが、今回行った「第八開運丸」のみんな。誌面を見た瞬間に、あったこともないこの漁師集団に、『会いに行かないと後悔する。』と思った。そして私は夜行バスで10時間近くかけて山田町に行き、海賊に恋をした。

「東北食べる通信」には、「CSA(Community Supported Agriculture)」と言って、生産者のファンクラブのような組織を任意で作ることができる。海賊のことをもっと知ってほしいと思った私はこれにエントリーし、かれこれ3年くらい、「第八開運丸 海賊団CSA」のマネージャーをやっている。今回のツアーはその一環。

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■震災にも負けないエネルギーの塊が、私を取り込んだ

山田町は、岩手県沿岸の、ちょうど真ん中あたりの町。主要産業は漁業や、それに紐づく水産業。震災前に19,270名いた人口のうち、816名の方々が亡くなったという。地震が起きて、津波が来るとわかった時、海賊たちは「商売道具の船を守らなくちゃいけない。」と思った。岸辺に船を置いておくと津波でやられてしまう。そういう時は、むしろ海に向かって一目散に船を出す。一か八かのスピードとの競い合い。海賊たちは、自分達の船を守ることはできたけど、沖から壊滅していく自分たちの町を、歯を食いしばって見ていたという。もちろん、津波が去った後の海は瓦礫と人の海。生存者を見つけて船に引き上げたりもしたと聞く。この辺りの経験は、さすがの私も、深く聞こうとは思えない。

とにかく、そんな経験をして、普通なら失意のどん底に落とされそうなところだが、彼らはそうじゃなかった。震災直後から、沖に魚の群れが出るとわかったら船を出し、一網打尽にして売りさばく。漁協に頼る時代じゃないと、自分たちで「漁師直送」の旗印のもと直売を始める。

私は基本的に、強い人が好きだ。
身体的な強さもあるけど、精神的に自立していてタフな人が好き。
腕一本で生きていける、そして世の不条理に挑んでいく、しかも明るく楽しく。
そんな彼らが大好きだ。

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リーダーの柏谷智康さん

 

■海賊ツアー2017 

海賊たちは、現在漁業の他に、「漁師直送」ということで、様々なイベントや店舗・自治体などに呼ばれて各地で浜焼きイベントや魚の販売を行っている。遠くだと、静岡県三島市に呼ばれて向こうで販売会をしたりもする。先日は三島市長を表敬訪問してきたくらいだ。

関東圏にも、年に2回くらいのペースで直売に来る。そんなときは、CSAの会員が集まって販売をお手伝いをして、終わったらみんなで飲みに行く。

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ただ、漁師はやっぱり、船に乗っている姿が一番かっこいい。それに、海まで行かないとわからないことはたくさんある。
というわけで、自分のミッションとして「年に1回、山田まで行って海を見て漁師体験をするツアー」というのは、一番やりたいメインイベント。

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今回のツアーでは、総勢15名が参加し、実際に漁船に乗り、牡蠣やホタテの収穫に立ち会い、ちょっとだけではありますが作業もして、あとはみんなでひたすら飲みまくる、というもの。ちなみに、9時間くらい飲んでました(笑)

 

■実際に見てみないとわからないことがほとんど

たとえば、ホタテ。
上記の動画は、今回実際に参加者に見てもらったホタテの水揚げの様子ですが、こんな感じで養殖用のブイに吊るしてあるものを船で巻き取っていく。その際に、当然ですが海にぶら下がているわけだから、謎の生物がたくさん付着しているんです。

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海中から引き上げたほたては謎の形状

これを、陸に上がったらナタみたいなものを使って表面をガシャガシャ叩いてキレイにする。付着しているものは、海藻などだけではなく、カラス貝などのような貝類、ホヤ、ゼリーのような謎の生物、ちっちゃなカニ、ゴカイみたいなsomething…etc.etc.

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表面をきれいにする(2014年撮影)

でもそんな手間な作業が発生しているなんて、東京にいたら普通は知らない。 ホタテの貝はつるんと美しいものだと思っている。

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山田のホタテはとにかくでかくてうまい。

 

■名もなき何かも、食べるとうまい

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名もなき貝。肝を食べると酔っぱらうとのこと。

あと、これは実際に農家で育ったものとしてはよくわかるんだけど、「ものの名前」って実は結構どうでもいい。名前のない何かが、生産現場にはたくさんある。それぞれの地域の愛称とか、その家独自の呼び方とかあるけど、正式になんていう名前か知らない。大事なのは「食えるかどうか」「美味いかどうか」だけだ。
この写真の謎の貝も、すっごく不思議な緑ともピンクとも言えない色をしていて、名前がない。しかもキモの部分を食べると酔う(アルコールと言うより、神経性の何かだと思う。。。)らしいので、実の部分だけしか食べれない。でも美味い。
ただし名前がないから、物流に乗らない。そういうものは、ローカルだけで楽しまれる。物流に乗らないから値付けもない。楽しむために存在する。そういうものは、当然現地に行かないと食べることができない。
彼らの看板商材のひとつである「シュウリ貝」もそうだ。簡単に言うと、ムール貝の日本古来種。ムールより大きくて味が濃い。でもこれを食べれるって認識している人はこれまであまりいなかった。いてもローカルで消費されている程度。それを、「漁師直送」の看板メニューに持ってきた。海賊は、ただエネルギーがあるだけじゃなくて、すっごく商才があると私は思っている。

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黒いダイヤ・シュウリ貝

 

■ 生産者と消費者が一緒に食卓を囲むことの大切さ

一緒に漁に出たり、販売会のお手伝いをすることも大事だけど、同じくらい一緒に酒宴を囲むって大事だと思っている。
人間って、やっぱり一緒に食を共有するってすごく大事だと思うんです。心の距離が全然変わる。お酒が入ればなおさらね。しかも、自分たちが獲ったものを、誰かが「美味しい美味しい」って食べることって、やっぱりスペシャルだし、その逆に、自分が食べているものを、目の前のこの人が海の上で苦労して獲ったんだと思うと、味が全然違ってくる。

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■「生産者と消費者がつながる」って、どういうことなんだろう。

ここでちょっと自分の話を。
私の実家は専業農家です。農業は好きですが、親がえらく苦労してきたのも見てきたし、消費者がえらく残酷なのも見てきた。野菜が高騰すれば農家は悪者扱いされたり儲かっていると揶揄されたりするが全然そんなことないし、味が変わらないのにたくさんの野菜がB級品になったり、料理や保存の仕方が悪いのに、野菜がまずいと言われたり。そもそももっと根本的な話として、社会的地位が低すぎる。そして利益率が低すぎる。食べることは生きることの基本なのに、食べるものを作る人はすごく厳しい世界に生きている。

高校生の頃、所沢の駅前で、月に1~2回朝市が開かれるようになった。たまたまそこに母親が出店することになった。土日のイベントなので、私も手伝いに行っていた。そこで初めて、手売りで人に実家の野菜を食べてもらうという経験をした。正直、儲かったかと言うと手間ヒマとか考えると全然儲かっていなかったと思う。でも、母親は嬉しそうだったし、私も妙に、誇らしい気分になったのを覚えている。「前回買ったこの野菜、美味しかったからまた来たの。」「今度、直接野菜を買いに行っていい?」「ごちそうさま!」「ありがとう。」そういう言葉は、私たちの心を満たした。

人間って、なんだかんだ触れあって向き合わないと理解が進まない。さっきのホタテの話じゃないけど、知っていると知らないとじゃ、もののありがたみが全然違う。だから私は、「直接会うこと」を大事にしていきたいと思っている。

私がやっているCSAと言うのは、消費者と生産者がともにつながって、コミュニケーションをして相互理解を深め、さらには生産リスクを一緒にシェアするというものだ。すっごい微々たるものだけど、私たちは月々彼らに1000円を積み立てている。その1000円を使って、たとえば漁に必要な網の修理に使ってもらったり、燃料代の足しにしてもらったりして、その結果収穫できた魚介類を年に2回送ってもらっている。とはいえ、私の力が及ばないこともあり、まだまだ会員が少なく、大した金銭的サポートはできていない。ここは私の問題だと思っている。
(先ほどFBに唐突に会社登記の話を書いたけど、それはこの辺りに関連してくる話。)

私は根っからの社会貢献型の人間ではなく、正直こてこてのビジネスマンだと思っている(たぶん、否定する人も多いと思うけど。)利益がなければメシは食えないし、余裕がないと人は優しくできない。だから本当は、「私がすっごいおカネを引っ張ってくるからさ!」って言ってあげたい。

でも、それは今のことろ出来ていない。出来ていないことを、親組織である東北開墾に責められることもある。このことは、私を精神的にかなり追い込んでいた。

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新たに開運丸の前掛けができました!

でも、今回のツアーを通して、海賊と会員さんが楽しそうにコミュニケーションを取る様子を見て、果たして私がすべきことはそこなんだろうか、と思った。ビジネスでスケールすることは、当たり前だけどその当人にしかできない。CSAが金銭的にもリスクをシェアするなんて、そもそもそんな発想自体がおこがましいんじゃないだろうか。

それより、私ができることは、「ごちそうさま。」とか「ありがとう。」とかをずーっと言い続けられる仲間を作っていくことなんじゃないか。だってみんな、とっても楽しそうだ。そしてそんなハピネスが、新たに友人をこの輪に連れ込んだり、直売の時に手伝いに行って一緒に苦楽を共にしたりにつながっていく。

私のCSAは、そういうものでいいんじゃないか、そう思った。
逃げじゃないと思う。それでいいんだと思う。違うという人がいても、私はもう、そう考えることにした。

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上記の写真は、今回偶然取材にしていたNHKワールドの撮影の様子と、ダニエル・カールさん。ダニエルさんは開運丸の大ファンで、イベントにも山田にも頻繁に来てくれている。

海賊の魅力は、どんどん広がる。今回の様子は世界中に発信される。
そんな海賊といつまでも「家族ほどの密接さじゃないけど、いつも心のどこかにいる人。親戚。」くらいの心地の良い距離間で結ばれるコミュニティを、私は今後も維持していこうと思った。

来てくれたみなさん、ありがとう。
海賊のみんな、ありがとう。

これからもよろしくお願いします。

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