オーストラリア旅行 〜ウルル・カタジュタ編〜

赤や黄色のドットが、黒いキャンバスに無限に広がる。その中に、トカゲのような生き物がいる。水を表す渦や、人を表すU字の模様。美しいと言うより、ただただ印象深い絵。それが、私とアボリジニ文化との出会いだった。

2008年、六本木の新国立美術館で開催された「エミリー・ウングワレー展-アボリジニが生んだ天才画家-」。その独特の色彩に惹かれて見に行った。
どういうわけか、それまで南半球の地域にあまり関心を持つことはなかった。アボリジニという人々について知ったのもその時が初めてだった。
ただ、そのエミリー・ウングワレーの絵と、絵が表す神話の世界が印象的で、かつ彼らが受けた迫害の歴史を知り、以来なんとなく気になって、国内のアボリジニの展示会などに行くようになった。

1年前、偶然、ウルル登山が2019年10月下旬で禁止となるニュースを見た。
禁止の理由は後述するとして、単純に旅好きを公言している人間として「これは行かなくては」と思った。

2018年12月22日、19時、成田発。約10時間のフライトの末にメルボルンへ。そこから国内線でアリススプリングス、さらにエアーズロックへ。

■ウルル? それともエアーズロック?
ウルルとエアーズロックは同じものです。あの、赤く巨大な一枚岩です。なのになぜ名称が複数あるのか? 理由は、ウルルはアボリジニ(アナング族)が名付けた名前。エアーズロックは、イギリスの探検家ウィリアム・ゴスが、旅のスポンサーであるヘンリー・エアーズに敬意を表してつけた名前。そう、悲しい植民地問題です。そして、「エアー」というと「Air」を想像している人もいるかも知れませんが、人名です。「空を突き刺す大きな岩」とか、そんな意味はまるっきりない。

アボリジニが遥かアフリカから、海や島を渡ってオーストラリアに来たのは4万年前とも12万年前と言われているそうです。その中にも複数の民族がいて、ウルルはアナング族の持ち物。彼らは文字を持たず、絵と口伝によって自らの神話や歴史を書き留め、後世に文化を伝えているそうです。

その後、17世紀から18世紀頃にかけて、ヨーロッパからの探検家たちがオーストラリアを発見、認知されはじめる。先述の通り「ウルル」は「エアーズロック」と名付けられ、ウルルに並んでユネスコに登録されている「カタ・ジュタ」は「オルガ山」と名付けられた。これは当時のドイツのヴュルテンベルク王妃オリガ(オルガ)に捧げた名前だ。
そうして白人たちが土地に名を付け、移住し、アボリジニの人々は追いやられていきます。ちなみにこの時点で、50万人から100万人ほどのアボリジニがオーストラリア内に生活していたそうです。彼らは土地と奪われ、ウルル、カタジュタもオーストラリア政府のものになってしまいました。長い苦難の歴史です。迫害、暴力(性暴力含む)、子供を強制的に白人家庭や施設で育てる同化施策、今では考えられないようなことが行われてきました。人口は一時期7万人まで激減したそうです。ちなみに「アボリジニ」という言葉も差別的な意味が含まれていて、現在は「アボリジナル」など他の言葉で言うことが多いそうですし、そもそも彼らは自分たちを「アボリジニ」とは呼んでいなくて、部族ごとの呼称があるのですが、ここでは伝わりやすさを重視して「アボリジニ」で通します。

しかし、1960年代から世界的に人権問題が注目されるようになります。その結果、1967年にようやくアボリジニの市民権が認められます。合わせてアボリジニたちの所有物を彼らに返そうという動きが活発になり、多くの土地が彼らに返還されました。しかし、観光名所として世界中から多くの人が訪れるウルルとカタジュタは返還されませんでした。

そこでアボリジニたちは、1976年に裁判を起こします。しかし、英語もわからず、文字もかけない彼らの裁判は難航。9年がかりで、やっと2つの世界遺産はアボリジニたちの手に返されることになりました。とはいえオーストラリア政府も指を加えて見ているわけには行きません。そこで、「賃貸契約」という形でアボリジニからオーストラリア政府に貸し出す形を取り、そのかわりに国立公園に入る入場料の一部を彼らに提供づる事になりました。
1987年に、ウルル=カタ・ジュタ国立公園はユネスコ世界自然遺産に登録されます。このとき、エアーズロックという名称からウルルという名称に変わったそうです。以来、「エアーズロック」を「ウルル」と呼ぶ傾向が強まっています。ただし、空港や観光施設には「エアーズロック」という名称が固有名詞として残っており、若干のねじれを感じました。私個人としては、今後極力「ウルル」という名を使っていこうと思います。

■エアーズロックリゾート

言っていいるそばからなんですが、ウルル観光の拠点は「エアーズロックリゾート」というホテルの集合体です。オーストラリア在住で他都市から日帰りで来るとかそういう場合以外は、「エアーズロックリゾート」を使うことになると思います。他に宿泊施設はおそらくないと思います。また、ウルルを間近で見たい場合は、レンタカーで自力で移動する場合を除いて、ツアーに参加すべきです。というのも、周囲は本当にステップで(分類的には砂漠性気候)、タクシーを捕まえるとかバスで行くとか、そういうレベルではありません。
エアーズロックリゾートにはタイプやグレード別に複数のホテルがあります。その中でも私は比較的リーズナブルな「アウトバックパイオニアホテル」に2泊しました。小さいですがプールもあって、レストランやバーもあります。安く済ませたい人にはドミトリーもあるそうです。

エアーズロックリゾート内には、ホテルの他にスーパーやカフェ、お土産物屋さんが揃った一角もあり、砂漠地帯もなかで一つの街を形成しています。全体が大きな円形で、各施設をつなぐようにサークル状の道路があり、無料シャトルバスが20分おきくらいで周遊しています。非常に過ごしやすいですが、ひとつ指摘するとしたらレストランやスーパーが大体9時か9時半には閉まること。夕飯が付いているツアーに参加する人はともかく、サンセットを見て8時過ぎにホテルに戻ってシャワーでも浴びたものなら、食事の時間を失います。要注意。ただしこちらのレストランはラストオーダーの概念がないようなので、滑り込みOKです(実践済み)。

■キャメルライドがとにかくステキ!
さて、そんなわけでウルルに2泊滞在して何をしたかと言うと、まずは到着初日にキャメルライド! これは親友の勧めで「英語ツアーしかないけど是非!」ということで勇気を振り絞って行ってきました。そして、本当にで行ってよかった!!

ツアーはサンセットとサンライズがあります。私は到着日のサンセットを見に行きました。ホテルで待っていると、日没の約90分前にガイドさんがバスで迎えに来てくれて、ラクダたちの牧場(?)に移動。たくさんのラクダが一列に並んで待っています。そこで、「あなたは●●くんね!」という感じでラクダを指名されます。私は「カーン」というラクダを指定され、ガイドさんのレクチャーを受けてラクダに乗り、全員で一列になってウルルの見える地点に移動。私は動物が大好きなので、ラクダの息遣い、モシャモシャと何かを喰む音、やさしい瞳、足から伝わる体温、ユサっユサっというリズム、全て愛おしかったです。1時間ほどだったと思いますが、ステップの中をウルルに向かって移動し、夕日に染まるウルルやステップに映るラクダの影を撮影し、サンセットを眺め、再び牧場に戻って参加者たちとシャンパンと軽食を楽しみました。

一点注意すべきは、ラクダのストレスの関係だと思うのですが、大きめのサイドバックは持っていけません。私はPCバックを旅行用のカバンに変えていたのですが、小屋においていくようにとのことでした。首にかけられるカメラや小さなポシェット、iPhoneなどは持っていけます。

■ウルル、サンライズツアー
その晩はホテルに戻って深夜まで空いているバーでビールとバーガーを楽しみ、翌日は4時起きでウルルのサンライズツアーへ。ちなみにこのサンセットツアーと午後のカタ・ジュタ&サンライズツアーは日本語ツアーです。このツアーに申し込むと、もれなく空港への送迎がついてくるので便利です。
さて、ウルル=カタ・ジュタ国立公園の中は基本的に圏外でした(サービスによるのかもですが、グローバルWi-Fiは圏外でした)。ただし、唯一サンライズ会場にはfree Wi-Fiが飛んでいます。ちょっとした見晴らし台があって、そこにいろんなツアーのバスが集まり、サンライズを見ます。岩肌が幻想的に染まっていく様子が美しい。

このあと、ウルルの麓まで行って、アボリジニたちが残した壁画や、彼らが聖地として大切にしている場所の説明などを受けます。ちなみに聖地の写真は撮影禁止です。ウルルの麓まで行って意外だったのは、それまで無風状態でも麓は風がかなり強い、意外と植物が生えている、という点です。

その後は、「アボリジニ文化センター」へ。彼らの歴史や、壁画の意味、暮らしぶりについてまとめられています。ここはもう少しゆっくり見たかったですが、ツアーなので仕方がない。いくつか絵を買って帰るつもりだったのですが、なんとなくピンとこなくて断念(これが後に、正解だったと分かります)。

■カタ・ジュタとウルルサンセットツアー
砂漠気候で、日中は40度を超える真夏のウルル。10時過ぎに一旦ホテルに戻り、プールとビールを楽しみ、爆睡して、再び16時頃にホテルにツアーのお出迎え。カタ・ジュタ&サンセットツアーに出発です。
カタ・ジュタは、日本人にはあまり親しみがない名前だと思いますが、ウルルから50kmくらい離れたところにある巨大な岩の集合体です。実はこのカタ・ジュタとウルルは兄弟なんです。実はこのあたり、大昔は海の底でした。それが今から約3億5000万年前に地殻変動が起こり、海底がU字型に隆起したのだそう。その片方がカタ・ジュタで、もう片方がウルルというわけです。

というわけで、まずはカタ・ジュタへ。ここは「風の谷のナウシカ」の「風の谷」の舞台なのでは? と言われる場所で、そのとおり、巨大な岩と岩の間に望む青空にはメーヴェが似合います。岩には、太古の昔に積み重ねられた地層がしっかり見て取れます。ちなみに、ウルルもそうですが、このカタ・ジュタも、本来の色は「赤」ではありません。証拠写真が撮れました。中はグレーで表層だけ赤くなっています。

この岩たちは、元々グレーなんです。成分的には鉄が多い。そこに雨が降り、表面の鉄が酸化して赤い色になっているのだそうです。ふと思ったのですが、人類がいなかったころも赤かったんですかね?人間がいなくとも二酸化炭素は空気中にあるので、酸性の雨は降っていたんですかね。わかる人いたら教えてほしいです。

カタ・ジュタ散策を終えて、再びサンセットを見にウルルへ。
ウルルにほど近い会場につくと、ツアーごとに軽食とシャンパンが用意されています。そしてここに、なんとアボリジニの方たちが絵を売りに来ていたのです!! 絵画きっかけでアボリジニの存在を知った私としてはテンションだだ上がりです。先程の文化センターにあった絵よりも、気になる絵がたくさん。しかも、当然ですが安い。シャンパンも程々に、地面に座って絵を広げる彼女たちの周りを何度も何度も回りました。気になる絵は油断しているとすぐに売れていきます。私も、欲しかった絵は1枚は買えて、もう1枚は戻ったときには売り切れていました。ちなみに、アボリジニの方たちは写真を好まないと聞いていましたが、私の絵の作者にツーショットをお願いすると快く応えてくれました。

ちなみにこの時、同じツアーの参加者で、やはり熱心に絵を買い求めていた男性がいて、隣りにいた私を連れと間違って話しかけて来たんですよね(笑)。で、そこから意気投合してこの日は3人で楽しいディナータイムを過ごしました!旅先のご縁に感謝です!

■私のウルル登山の結果
こうしてウルルでの時間があっという間に過ぎ、最後の朝。私は再びウルルを目指しました。実は、前日のツアーの中で3回ウルル登山のタイミングがあったのですが、全て強風のために中止となってしまいました。この朝が最後のチャンスでした。
ただ、元々ウルル登山がきっかけとなってオーストラリアを旅先に選んだわけですが、私の気持ちは揺らいでいました。なぜなら、ウルル登山を、土地の所有者であるアボリジニの方たちは望んでいないからです。そして、私の結果についてはFBに詳細を書きましたので、そのまま引用します。

今朝もウルルに拒まれまして。昨日同様、理由は強風でした。12月の登頂率12%というのはリアルでしたね。
1年近く前に「2019年10月下旬でウルル登山が出来なくなる」と知り、登りたい旨を伝えると数名の方から厳しく批判されてきました。理由は、ウルル登山を禁止しているアボリジニの方々と、観光目的で許可しているオーストラリア政府との対立です。アボリジニの方々の気持ちを考えると登るべきでないというのが、登山を控えてほしいと伝えてきたみなさんのご意見です。
とはいえ、両者の交渉の結果(仮に不平等交渉があったとしても)現状は公式に許されていて、アボリジニの文化(特に絵画)に非常に興味を持っていて、一定の文化の勉強はしていて、国内で美術展があると必ず行っている自分としては、行けるものなら行ってみたいと思っていました。
が、こちらに来てから揺らぎました。日本でリサーチしていた以上に、現地の登山に対する反対意思表明は明確で、英語ツアーは基本的に登山をコースに組み込まず、日本語ツアーも自己判断としていて、登頂口には「登らないで」と明示されている。これはさすがに考えさせられました。正直、日本にいるときは、「とはいえアボリジニの方たちも観光で収益を得ているし…」くらいに思っていましたが、観光コンテンツを一つ失っても全然構わないという強い意思を感じました。
そんなわけで、私の旅程では昨日と今朝の2回登頂チャンスがあったのですが、今朝をどうするかはかなりモヤモヤしました。が、やはり、元々「登れるうちに登ってみたい」というところから始まった私のオーストラリア旅行なので、今朝も麓に来た次第です。
登れないのは残念ですが、一方でちょっとホッとしたというのもあります。どちらにしろ、やっぱり現場に行くって大事ですね。じゃなきゃ地元の温度感なんてわからないし、登るか登らないか悩まなければこんなに深く本件について考えることもない。だから本当に来て良かったと思う。
今日のウルルもとってもキレイでした。登頂出来なくとも、ここは素晴らしい場所です!

日本のツアーについては、こちらのブログが非常に詳細にまとめていたので参考までに
とはいえ、最終的な判断は、私と同様に各観光客がすれば良いものだと思っています。

こうしてウルルでの時間は過ぎ、次はケアンズへ向かいます!

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