メタボリズム建築・中銀カプセルタワービル

建築物が好きだ。
海外に行くのも、変わった建築物を見たいという思いが強い。20歳の時に行ったロンドンは衝撃だった
大学でも一コマ建築関連の講義を取っていたけれど、これは自分の適正には向かないと思って、以来かじる程度にしている。

2011年、森美術館で「メタボリズムの未来都市展」が開催された。

「メタボ」という言葉から、最近の人が聞くとあまりいいイメージがしないかもしれないけれど、生物学用語で「新陳代謝」を意味する。つまり、建物や都市が、環境やニーズに合わせて生き物のように増殖していく世界観を言う。
会場でこれを知ったとき、私はものすごく興奮したのを覚えている。建物がまるで有機物のように表現されている。それはすごく未来的に感じた。しかもそれは、もう何十年も前に形になっていた。そんな建物、見てみたい、と。

その、メタボリズム建築のひとつが、中銀カプセルタワービルだ。
汐留にあるので、見たことがある人もいるかも知れない。

この中銀カプセルタワービルの見学会があることを知り、先日行ってきた。
1972年竣工。私の10個先輩だ。
メタボリズムの立役者の1人である黒川紀章の設計で立ち上がったビジネスカプセルハウス。

実はこの建物、A棟とB棟のツインタワーになっていて、カプセル部分は3階ごとにブリッジされていて行き来ができる。
ブリッジは雨風も吹き込むので余計に老朽化が目立つ。でも、それもなんだか愛おしい。

140室あり、約20は今でも人が住み、約40は事務所としてシェアオフィスや地方企業の東京支店として使われ、約40が趣味などのセカンドハウス。残り40は老朽化などで使えないとのこと。階段を下り、いよいよカプセルに入る。

印象的な丸窓は「禅」を意識したのだそう。茶室や禅寺のイメージ。こんな近未来建築でも「禅」というのが面白い。

この部屋は、見学用に当時の様子を留めているもの。
部屋によっては、オーナーさんの趣味で、和室になっていたり、コレクションルームのようになっていたり、それぞれだそうだ。

バスルームとトイレもある。しかし、現在は老朽化の影響で給湯が止まっている。それでもここを愛する住人は、工夫しながら暮らしている。バスタブに水を入れて電気湯沸かし棒でお湯を沸かす方がいるそうですが、この方法だと夏は2時間、冬は4時間かかるとのこと。または風呂は外で済ますと割り切っている人もいる。ちなみにエアコンも、元々はセントラルで空調を管理していたが、パイプ本体が老朽化して、今は機能していない。各住人が自分たちでエアコンを付けたり、他の手段でしのいだりしている。ある意味、各カプセルの中が有機的に進化している。

オプションで、テレビとラジオと電話とテープデッキのユニットがついてくる。これも、丸窓と同じくらい、この部屋の象徴的な存在ですね。ちなみにすべてSONY製。黒川さんはSONYがお好きだったんだそうです。個人的にツボだったのは、このユニットに「情報処理機器」という名称がついていたこと。時代は変わりますね。

こちらは当時のカタログ。これを読むと、このビルが当時の企業戦士のために建てられたのだということがよく分かる。
26時まで働くのが当たり前のビジネスマンのための住まいということが明言してある。だから家には、洗濯機やキッチンもいらない。あとはコンシェルジュやベッドメイキングサービス、タイプライターの貸し出しとかのサービス・オプションがある。これは今住んでいる勝どきのマンションにも通じるところがあるかもしれない。そういう時代だったんだと思う。うちのマンションも、リニューアルされているけど、建築年数はほぼ一緒。

46年前から修繕されていないので、壁のペンキが剥げたりしている。本来この建物はメタボリズムの思想に則って、老朽化したらカプセルを入れ替えればよいはずだった。黒川さんもそうしたかったらしい。でも、大規模修繕には住人の半数以上の同意が必要。結局、実現しないまま今日に至っている。

水漏れやエアコンの老朽化など激しく、エレベーターはメーカーからそろそろ修理不可との通達も。それでも人は住む。空室が出ても、すぐに埋まるほど人気だそうな。実際に行ってみて、それだけの魅力がある場所だと感じました。ただし私は住まないけど(空調と温度は死活問題・笑)
でも、ちょっとしたオフィス兼商談スペースならありだと思いました。

建物には、やっぱり寿命がある。
いくらメタボリズムの思想で作られていても、経年劣化には耐えられない。
もし中銀カプセルタワービルやメタボリズム建築にご感心がある方は、ぜひ見学会に行ってみてください。

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